欲しい博士学生の基準は業界による

エントリーシートや面接では「自分の長所」や「学生時代に力を入れたこと」など、自分の性格やスキルをアピールするための質問が必ずあります。

今回はこれらの質問に答えるために必要な情報である「企業はどんな博士学生を欲しているか」を私なりに述べていきます。ただし実体験に基づきますので研究職のみです。ご容赦ください。

 

前回の記事で、エントリーする企業の選び方として4種類あげましたが、研究職は2種類の選び方がありました(下記記事参照)。

hakase-shuukatsu-bio.hatenablog.com

 

 当該部分だけ抜き出すなら、

a. スキルや専門性がほぼ完全に一致し、活かせる研究職

b. スキルや専門性自体は活かせないが、基本的な研究能力を活かせる研究職

です。

 

就活をしていたときに気付いたのですが、学生側の企業の選び方に種類があるのと同様に、企業側からしても博士学生を研究職に採用する判断基準はいくつかあるような気がしました。私の感覚で分けると、

1. この分野に人が欲しいというのが具体的に決まっていて、その技術を持っているかどうか、使えるレベルにあるかどうかが判断基準。

2. 新しい風を取り込む目的で、(利用目的はその時点では不明確だが)今会社にノウハウのない何らかの面白そうなスキルを持っているかどうかが判断基準。

3. 具体的なスキルは不問で、基礎的研究能力(問題発見能力・問題解決能力・英語力・吸収の早さ・行動力・後輩の指導能力など)が身についているかが判断基準。

の3つに分けられると思います。

 

もちろん、同じ企業の研究職枠全てをあるひとつの基準で選別するのではなく、1.~3.の学生をある比率で採用していると思います。ただその比率は企業によって異なりますし、もっといえば業界ごとにある程度傾向があると思います。

例えば製薬企業は圧倒的に1.の傾向が高いです。理由のひとつは、大学でも製薬企業と似た応用系・医療系研究テーマが多いからだと思います。そういった応用研究をしている学生とバリバリの基礎研究の学生が面接で並んでいたとしたら、応用研究の学生の方が魅力的に映るのは仕方がないことでしょう。また少し言い方は悪いですが、大学での研究テーマがそのまま製薬企業の研究テーマになり得そうなとき、”その研究テーマごと買い取る”ような意味合いで学生を採用している(=企業に入っても大学の研究の続きに近いことをやってもらう)こともありそうでした。その学生にとっては、その研究テーマに飽きてさえいなければとても幸運ですね。なんにせよ、特許の競争が非常に激しく、特許をひとつ逃すことが死活問題になりかねない業界の特性上、できる限り即戦力になってくれる博士学生を好む傾向があるようでした。

反対に、医療機器や食品系の研究職は2.や3.が多いように感じました。恐らく医薬品ほど大学レベルで多くの研究がなされていないということと、研究開発や流行のスパンが短いために今持っているスキルが陳腐化する可能性が医薬品よりも高いというのが理由だと思っています。したがって、今必要でなくてもいつか必要になるかもしれないから面白いスキルの学生を採用しておこうとか、将来どんなスキルが必要になっても対応できる基本的能力が高い学生を採用しておこうとか、という思考になるのではないでしょうか。

 

ここで学生の皆さんにとって重要なのは、自分の企業の選び方と企業の採用の傾向をすり合わせなければならないということです。

例えばある学生が前記事のa. の軸で企業選びをしようと思ったら、本記事1.の基準で採用してくれる企業を探さなければならないのです。2.や3.の基準で採用されると他の研究をさせられるわけですから。しかしそもそもその学生の研究テーマ自体が基礎研究だったり、応用研究ではあるもののやや時代遅れの手法だったりすると、「その研究スキルや手法をそのままうちでもやり続けてくれ」と言ってくれる企業を探すのは非常に難しいでしょう。

反対に前記事b.の軸で企業選びしたい場合、狙うべきは本記事2.や3.の基準で採用している企業です。ですが大学での研究テーマで身に着けたスキルの数が少なかったり既存の手法の流用だけだったり、あるいは英語が苦手のままだったりすると、基礎的研究能力を十分にアピールできない恐れがあります。

 

ちょっと厳しい言い方をすると、前記事で「企業の選び方は自分が何をしたいかという趣味嗜好に基いて決めるしかない」と書いたものの、そこにはどうしても今の自らの研究テーマによってフィルターがかかってしまうということです。自分の趣味嗜好とは関係なく、テーマの所為でほぼ本記事2.や3.の基準で採用を行っている企業しか受けられないという学生は少なくないと思います(私もその一人でしたが、私は自分にとって新しい研究がしたかったのでちょうどよかったです)。

今すでに博士後期課程で研究を行っている方々は、正直そのあたりは覚悟していてほしいと思います。これから博士後期課程に進む方で将来的に就職を考えている方は、研究テーマ選び(ひいては研究室選び)から就活は始まっていることを頭に入れておいてください。

 

少し説教臭く、ネガティブなことばかり書いてしまった気がするので、次回は習得しておくとウケがいいかもしれない個人的におすすめのスキルを紹介しようと思います。